【インタビュー】農家 繁昌知洋「自分の子どものようなイメージで、 野菜を守りながら育て上げていく」

第104回のWorker’s fileは、東京都青梅市にある繁昌農園の繁昌知洋さん。土や生物を尊重する栽培方法“有機栽培”を用いて200品種ほどの野菜を育てると同時に、農育・食育活動も行うなど、野菜や農業の魅力を広く発信する繁昌さんに迫ります。

【インタビュー】農家 繁昌知洋「自分の子どものようなイメージで、 野菜を守りながら育て上げていく」

農家 繁昌知洋
東京都出身。大学時代は北里大学海洋生命科学部にて河川生態系、森林生態系の研究を行う。卒業後はデパートの青果店勤務を経て、マイファームアカデミー(現・アグリイノベーション大学校)で農業について学ぶ。その後、東京都立川市の農園で研修を積み、2016年に青梅市で新規就農。現在は繁昌農園にて定番野菜や伝統野菜を栽培し、個人宅配や無人直売所、マルシェなどで販売している。


自分の子どものようなイメージで、
野菜を守りながら育て上げていく



💬仕事内容を教えてください。

繁昌農園という農園で、皆さんの食卓によく並ぶような定番野菜をはじめ、江戸東京野菜や西洋野菜など、200品種ほどの野菜を作っています。種蒔きをして野菜を育てたり、寒い時期にはビニールハウスの中で育苗をして植え付けをしたりします。野菜を収穫してからは草刈りなどの畑の管理作業があったりと手間はかかるのですが、自分の子どものようなイメージで野菜を守りながら育て上げていきます。それと同時に畑にはもっと多面的な機能があって。僕の場合は農育や食育活動をしています。親子連れを対象に土を触ってもらうイベントを開催したり、実際に収穫した藍を使って藍染をしたり。そういったことを月に1回ほどやっています。

💬販売方法としてはどんなものがあるのですか?

全体の販路の半分くらいが個人宅配になります。野菜セットという形で、タンボールの中にその時に採れる旬の野菜を詰め合わせて発送しています。残りの野菜はなるべく地元の方に食べていただきたいので、無人直売所に持って行ったり、マルシェに出したり。あとは最近だと飲食店にも卸したりしています。

💬農家になった経緯を教えてください。

農家になりたいと思ったのは大学卒業あたりだったのですが、今思えば農業に触れ始めたのは幼少期の頃でしたね。保育園でやった芋掘りを今でも鮮明に覚えていて、あれが原体験だったような気がします。あとは小学生の時に、新潟のスイカ農家を手伝う機会があって、暑い中スイカを採って食べたことが良い記憶として残っていますね。そういうのも農家を目指す要因だったのかなと思います。もともと動物や生き物が好きだったこともあり、大学では河川生態学の研究をしていました。そこではいろいろな生き物がいて自然が成り立っているということを学び、就職するタイミングで自然と関わる仕事をしたいと思ったのですが、意外とありそうでなくて。試行錯誤しながら考えていくうちに、農業って面白そうだなと思ったんです。だけど当時の僕はお金がなかったので、とりあえず就職しようと思ってデパートの地下にある青果店で働き始めました。そこでは野菜の旬だったり、お客さんのニーズを学ばせてもらって。改めて自分で畑をやりたいと思い、仕事を辞めて市民農園を借り、まずは耕すところから始めてみました。同時に、その市民農園を運営している会社が農家になりたい人向けにスクールを開設したので、そこにも通って農業のことを学んで。その中のご縁で東京都の立川市の農家さんのところに行く機会があり、そこからはそこで研修をすることになりました。農家さんと一緒に収穫作業をしたり種蒔きをしたり。見て学ぶというよりかは、実際に体を動かして学ぶという感じでしたね。そこで都内でも農業ができるんだということを知り、自然がある場所などの条件から青梅で農園を始めることにしました。

💬繁昌さんの農業のこだわりを教えてください。

野菜作り=土作りというくらい、まずは土を育てることを大切にしています。僕がやっている有機農業というのは、土を尊重するやり方なんです。もともと僕は学生時代に生物のことを研究していたこともあり、土や生態系を尊重したやり方で何かできないかなと思ったのが始まりで。目には見えないですが、土っていろいろな生き物が作用してできているんです。丁寧に土を作り上げることによってしっかりと根が張り、野菜はゆっくりとそれぞれの個性で育っていくので、味の濃さなどに繋がっていきます。

💬20代で就農して大変だったことはありますか?

研修先で学んだやり方と同じようにやっても、上手くいかないところは大変でした。というのもやっぱり土作りがすごく大切で。研修先の農家さんのところは、もちろん土ができている状態でやっているから問題ないんですけど、新規就農をするにはまず新しい畑を借りないといけなくて。その畑にはもともと何が植えられていたのかわからないし、もちろん何も植えられていなかった場合もあります。畑によって土の質が違うので、作物を育てて結果を見るというか。結果としてあまり育たなかったという時もありましたが、そんな中でもちゃんと稼がないといけないというのは結構大変でしたね。

💬20代で就農してよかったことはありますか?

それはたくさんありますね。でもやっぱりフットワークが軽いというのが一番ですかね。野菜を育てるだけではなく、そこから派生した農業イベントなども、近い世代の人を誘ってできたりするので、それはよかったなと思います。今僕は30代半ばですが、就農した20代の頃と気持ち的には変わらずに、農業というものに取り組めていると思います。

💬農育を始めたきっかけを教えてください。

大学生の時に、大学でやっている水族館に関わっていました。水族館では魚や生き物を展示するのですが、ただ飼って展示しているというわけではなくて、“生体展示”と言ってその生き物がこういう環境でこのように生きていますというのを学ぶために展示しているんです。来てくれたお客さんに対して、こういうことがあるからこの生き物は生きているというのを伝えるのがすごく楽しくて。この楽しさをもっと多くの人に共有したいなと思っていて、そこから農育に繋がったんだと思います。例えば僕は田んぼもやっているのですが、そこにはカエルなどの生き物がたくさんいて生態系が成り立っているわけです。ではなぜそもそも田んぼにはカエルがいるんだろうとか、そういったところをみんなと共有したかったんですよ。ただ農業体験として野菜を収穫してくださいというだけではなくて、土に触れるとか。種蒔き体験の時も、野菜の種の形はそれぞれで違うけどなぜこんな形をしているのだろうとか、そういった不思議を共有することに楽しさを見出したので、さまざまな農育プログラムを実施しています。今年は全8回に分けて田植えから収穫までを行うお米のプログラムをやっているのですが、ただの田植えと収穫だけではなくて、みんなが田植えから収穫まで、責任を持って“お米を作るぞ”という強い意気込みをもってやることで、意欲も変わってくるのでそれがすごく楽しいんです。見栄え的には収穫が一番良いのですが、やっぱり農業は収穫できるまでのプロセスがすごく楽しいんですよ。大変なんですけどね。そこをもっと多くの人に共有して理解してもらえれば、農業に対する意識が変わったり、今まで食べていたものをもっと大切に食べようと思えたりするのではないかということに期待しながらやっているという感じです。農業や食にもっと興味を持ってもらえるようになるのが目標ですね。それが結果として、自然を大切にするということに繋がってくれればいいなと思っています。

💬200品種ほどの多品目野菜を栽培されている理由を教えてください。

一般の家庭の食卓を彩り豊かにしたいという気持ちがあります。いつもスーパーで買っている野菜以外にもこういう野菜があるんだよということを提案したいんです。ただ普段あまり見ない野菜は食べ方もわからなかったりするので、Instagramなどを活用して食べ方を紹介したりもしています。

💬農家という仕事の魅力を教えてください。

根本的なことなのですが、新しい野菜を栽培する時には作り手がその味を知っていないといけないので、まずは自分で食べてみます。例えばきゅうり一つをとっても、漬物で食べると美味しいものや、生食が美味しいものなどいろいろあって。そういった違いをお客さんに伝えて共感してもらい、買ってもらって食べてもらうというのが、農業をやっていての一番の楽しみというか、醍醐味かなと思います。

💬農業に興味がある高校生にメッセージをお願いします。

一言で“農業”と言っても本当にいろいろなやり方があるので、さまざまなことにチャレンジし続けることが重要になってくると思います。いろいろな農業を視察に行きながらブラッシュアップしていくと、自分がやりたい農業とは何かということがわかってくるんじゃないかな。あとは、例えば作った野菜をPRするためにSNSも活用できるとか、いろいろなことにチャレンジするのが好きな人は強いと思います。ただ、今は農家さんをバックアップしてくれる企業もたくさんあるので、マルチにやっていく勇気がなくても不安に思わず、ぜひ飛び込んでみてほしいなと思います。
はじめに株式会社PLANET KIDS ENTERTAINMENTは、映画や舞台、イベントの企画・制作を一貫して行っている会社です。映像作品の企画から撮影、編集、舞台の運営や演出など、会社としての仕事は多岐に渡るのですが、その中でも僕は舞台プロデューサーと映画監督をしています。現在は舞台プロデュースの仕事が多く、演出家や脚本家といったスタッフ、キャストを選定するのも作品の責任者であるプロデューサーの仕事になります。映画監督としては、映画の企画から始まり、キャスティングから撮影、編集まで一通り行っています。

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小回りが利く耕運機
小さい畑を耕す時や作物の間を整備する時には、小回りが利く耕運機を使用します。耕運機の後ろのアタッチメントを付け替えることによって、耕す以外にも野菜の掘取りなどさまざまなことができるそうです。

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農家編:【ぼかし肥料】 ぼかしひりょう
米ぬか、もみがら、畑の土を混ぜて作る、有機栽培には欠かせない万能肥料。野菜を育てる上で重要な栄養素である窒素、リン、カリウムをバランスよく摂ることができる。

INFORMATION

『繁昌農園』

【インタビュー】農家 繁昌知洋「自分の子どものようなイメージで、 野菜を守りながら育て上げていく」


繁昌農園Instagram:https://www.instagram.com/hanjo_nouen.tokyo/