
自分だけの道を見つけ、目標に向かって進む学生たちに話を聞く新企画『なにものがたり』。初回となる今回は、高校生としてN高等学校で勉学に励むかたわら、家業である湯端温泉を継ぎ、若女将として経営に携わる桑子友菜さんのものがたりを紹介します。
“お客様の温かい声が届くような
雰囲気を守っていきたい”
現役高校生若女将の挑戦

小さい頃から湯端温泉で
お客様とお話しする時間がとても大好きでした。
—若女将としての現在の仕事内容を教えてください。
私が若女将として働く湯端温泉は、“貸切温泉がある宿”をいうのを売りにした地域に根付いた旅館です。そこで私は主に、新しいプランや広報媒体の作成、マーケティングなどを中心に行っています。母と2人で切り盛りしているので、カウンターに立って接客することもありますね。貸切温泉ということもあり、子ども連れのお客様やご夫婦をはじめ、事情を抱えて温泉に入るのが難しい方など、さまざまなお客様にご利用いただいています。
—桑子さんが若女将になった経緯を教えてください。
湯端温泉はもともと、私の曽祖父が創業した温泉で、その後私の父が継ぎ温泉を経営していました。小さい頃はお店に出てお茶を出すお手伝いをしたり、温泉に来てくれたお客様にたくさん可愛がっていただいたのを覚えています。しかし、2024年11月に温泉が休業することになって……。実は、父が別の事業を始めて軌道に乗ったこともあり、温泉をやる人がいなくなってしまったんです。営業する人もいないし、温泉を辞めてもいいんじゃないかという話になった時に、温泉を継ぐということを意識しました。私は小さい頃から温泉と共に育ってきたし、お客様の「ありがとう」という声をずっと聞いてきたので、温泉がなくなってしまうのが寂しいなと思い、温泉を継ぐことを家族に相談したんです。両親も最初はびっくりしていましたが、私が学校でマーケティングを勉強してプレゼン資料を作成したり、ホームページを作っているのを見ていて、今の私にならできるかもしれないと背中を押してくれたので、改めて挑戦してみようと思いました。
—湯端温泉を継ぐことへの不安はありましたか?
ありました。やっぱり高校生だし、自分に経営ができるのかなというところが1番不安でした。そんな時、母が「今は失敗してもいいよ」と言ってくれて。「友菜が家族を養うわけじゃないから、失敗してもいい。高校生だからこそ、挑戦するには絶好のチャンスなんだよ」と背中を押してくれました。
—若女将になって取り組んだことを教えてください。
まず取り組んだのはホームページの作成です。それまでもホームページはあったのですが、少し文字が多かったり、見た目もカッコ悪くて……(笑)。ホテルなどを予約する時に真っ先に目に入るのはホームページなので、真っ先に取り組み始めました。2025年3月に温泉を継ぐことを決め、5月には営業を再開しようと決めていたので、ホームページのリニューアルと並行しながら価格変更なども同時に行っていました。また、予約サイトの評価を分析していた時に、ある予約サイトだけ評価が星2だったんです。私がホテルを予約する時は、サイトの評価を気にするので、改善したいなと思い、予約サイトの担当の方に電話をして。理由を聞くと、アメニティが置いていないと評価をつけられなくてどうしても0になってしまうという風におっしゃっていました。0になってしまうとどれだけ宿の雰囲気や立地、お客様の声が良くても、平均すると評価は2になってしまうということでした。アメニティを追加するとその分値上げする形にはなってしまいますが、いろいろ検討した結果、5種類ほどアメニティを追加しました。そのほか細かいところでは、各部屋内に冷蔵庫を置き、ドリンクやお菓子の販売を始めました。
—若女将として働いていて楽しいことを教えてください。
やはりお客様とのコミュニケーションが1番楽しいです。若女将ということをさまざまなメディアで紹介していただいた影響で、今は地域の方がすごく応援してくださるようになりました。私のことを孫のように可愛がってお土産を持って来てくれるお客様や、「大学受験どう?」と声をかけてくれるお客様もいたりして。そういったコミュニケーションを取れるところがとても楽しいです。
—逆に、大変だったことはありますか?
経営方針が母と合わない時があってそこが大変でした。私は価格が安すぎるのでもう少し高くした方がいいという意見だったのですが、母としては昔からのリーズナブルな価格だからこそ楽しんでもらえたり、お客様からの「助かった」という声が大きかったという想いがあって。今は私も現場に立つことが増えて、この価格だからこそ「助かった」と言ってもらえたんだろうなというのがわかりましたね。
—群馬県のリバースメンターとして取り組ん でいたことを教えてください。
群馬県には、高校生が知事の相談役となって直接アドバイスや政策提言を行う「リバースメンター」という制度があり、そこに応募しリバースメンターとして活動していました。以前、乳がんのお客様がいらっしゃった時に「貸切温泉だから入れた」という声をいただいたことがあって。調べてみると、乳がんになる人は女性の9人に1人と言われており、悩んでいる方が多いことを知りました。入浴着の認知が広まるように、リバースメンターとして、小さい温泉が減少している現状と、温泉を諦めてしまっている人に向けた政策をできないか提言したんです。提言してそこで終わりではなく、実現した時により多くの方に伝わる方法はないか、行政の方と先を見据えて議論を重ね、実際に提言した案が実現化に向けて動いているものもあります。
—若女将として働く中で、大切にしていることを教えてください。
1番はお客様の声を一つひとつ大事に聞くということです。最初の頃は、子連れの家族にニーズがあると考えて貸切温泉を売り出していて。赤ちゃんと一緒に利用していただくお客様には、赤ちゃん用のベビーソープがあるといいかなと思い、ベビーソープとベビーチェアを置いたところ、お客様がすごく喜んでくれたんです。さらに、腰が悪いお客様から「高めの椅子を置いて欲しい」という意見いただいたのでそういった椅子を置いたりと、お客様の声を取り入れて、できるところから改善しています。また、自分の温泉だけで改善が難しいところは行政にアプローチをしたりと、お客様の声を湯端温泉から行政に届けるというのも意識しています。
—N高等学校ではどのようなことを学んでいるのですか?
2年生の時は週3日キャンパスに通い、マーケティングの授業を多く取っていました。またN高には「プロジェクトN」という探究学習のプログラムがあるのですが、そこでマーケティング戦略を考案するプロジェクトに取り組んだ時にモノの売り方やお客様の購入の流れなどを学びました。それには3ヶ月間取り組み、最後にある大きい発表会に向けてプレゼン資料を作ったりなどもしていました。また、学校行事で言うと、「キャンパスフェスティバル」というキャンパス内での文化祭があって。私は利益率の計算が得意だったので、屋台の企画の利益率を計算してアドバイスをしたりもして。若女将の経験が役に立った出来事でしたね。
—若女将と高校生活の両立で大変だったことを教えてください。
全日制の学校と比べると両立しやすいかなとは思います。ただ私は体力がなくて……。温泉では布団を敷く作業があるのですが、最初の頃は母についていけなくてクタクタでした。母に「そんなんじゃ温泉の仕事はできないよ」と言われ『若女将クビになる事件』が発生しました(笑)。若女将の仕事は力仕事が多くて。最初は大変でしたが、今はなんとか慣れてきました。
—湯端温泉の今後の展望を教えてください。
今後もずっと守っていきたいのはお客様の声です。お客様の温かい声が届くような雰囲気はずっと守っていきたいですね。売上のことだけを考えると、レジを無人化したり、受付をタブレットにしたりといくらでも簡略化することはできますが、それを考えた時に急に楽しくなくなってしまって。私が温泉をやっている理由は、お客様とのコミュニケーションが好きだからなんですよね。それを大切にしていきたいんです。これからも現代のニーズに合わせて、価格や温泉の形状は変わっていくからもしれませんが、お客様の声が届く環境はずっと守っていきたいです。
![]() 桑子さんが所属するN高グループ起業部のメンバーで話している様子。ビジネスに興味のある同世代の仲間と事業プランやビジネスアイデアについて意見を交換し、切磋琢磨しています。 |
![]() 現在は、桑子さんとお母さんの2人で温泉を経営しています。地域に根付いた温泉ということもあり、カウンターで接客をしていると昔から来てくれているお客様から声をかけていただくこともあるそうです。 |

オフでも頭の中は湯端温泉のことばかり。定期的に同級生を温泉に招待し、戦略会議を開催しています。友人が出してくれたアイデアを取り入れて、各部屋に冷蔵庫を設置したり、電子レンジやドライヤーを買い替えたりと実際に改善することも多いそうです。
公式HP:https://yubataonsen.my.canva.site
画像提供:N高等学校・S高等学校・R高等学校


