【インタビュー】『MOVIE WALKER PRESS』編集長 下田桃子「上映されている期間にみんなが同じものを観て熱狂できるのが映画の醍醐味」

今号2本目となる“Worker’s file”は、株式会社ムービーウォーカーで運営している映画プラットフォーム『MOVIE WALKER PRESS』編集長の下田桃子さん。映画業界を盛り上げている編集長に迫ります。

【インタビュー】『MOVIE WALKER PRESS』編集長 下田桃子「上映されている期間にみんなが同じものを観て熱狂できるのが映画の醍醐味」

下田桃子(しもだ ももこ)
株式会社ムービーウォーカー所属。大学卒業後、株式会社角川メディアハウスに入社し、映画事業部に編集者として配属。劇場発信型エンタテインメントマガジン 「月刊シネコンウォーカー」「TOHOシネマズマガジン」などの編集に携わった後、ウェブメディア『MOVIE WALKER PRESS』の編集長に就任。劇場用パンフレットや、映画『怪物』シナリオブックの編集も担当。

 

◆上映されている期間にみんなが同じものを観て熱狂できるのが映画の醍醐味

仕事内容を教えてください。

弊社で運営する映画プラットフォーム『MOVIE WALKER PRESS』の編集長を務めています。このサイトは、作品情報や上映スケジュール、新着映画ニュースなどのほか「次に観たい」映画を見つけてもらえるような読みものやインタビューを発信しています。私の主な仕事は、映画を盛り上げるための企画を考えることです。また、デジタル映画鑑賞券「ムビチケ」や「MOVIE WALKERアプリ」などムービーウォーカー社が運営するオンラインサービスが利用できる“MOVIE WALKER会員”というサービスがあり、その会員向けにできることを考える事業にも従事しています。

 

現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

学生時代は文芸誌の会社でアルバイトをしていたのですが、その頃から映画をよく観ていました。私としては小説や漫画のように作家と併走する編集業よりも、作品の話をする側、配給や宣伝をする人といった“届ける側”での関わり方が特に好きで。そのため、編集の仕事をよりエンターテインメントに近いところでやりたいという思いがありました。そんな中、在学中に偶然見つけた求人に応募し、飛び込むようなかたちでアルバイトとして入社させてもらって。自分の中だけで大事にしておきたいようなアート作品も、大騒ぎしながら観たい超大作映画も、どちらが上でも下でもなく、両方観てほしいっていうことを言いたかったので、この仕事は自分にぴったりだと思いました。その後、正社員になるまで期間はありつつも、編集部に配属されて以来、ずっと編集業に携わっています。

 

映画に関わる仕事の魅力を教えてください。

上映期間にみんなが同じものを観て熱狂できるのは、やっぱり映画の醍醐味。映画はもちろん、映画館が好きなんですよね。そういう熱狂に触れられるところが魅力です。企画段階から話を聞いたり現場に行ったりして、どんな人が「この映画を好き」と言ってくれたら映画が広がるのか、公開までの期間に映画を知ってもらうために必要な情報を露出することや、映画ファンの“映画体験”をどうやって充実させられるのか。上映期間中にさらに映画を広げるための企画を考えることもウェブメディアの役割だと思っています。そういう風に応援した映画が、実際にヒットしてたくさんの人に観られた時は本当に嬉しいです。ただ、最近だと『君たちはどう生きるか』や『THE FIRST SLAM DUNK』のように公開直前まで情報を明かさない作品もあって。そういう時、メディアに出来ることが狭まってしまうのは悩ましいですね。

 

仕事をする上でのモチベーションを教えてください。

次々に好きな映画人の新作に触れられるだけで楽しいものですが、「この作品を推さねば」という使命感に駆られるような作品が出てくると、やっぱり燃えますね。また、今年6月に公開された是枝裕和監督の『怪物』のシナリオブックを弊社で出版しました。これまでムービーウォーカー社ではシナリオブックを出版したことはなかったのですが、個人的にずっと脚本家の坂元裕二さんと仕事がしてみたいと思っていて。仕事をしている中で、周りの方に自分がどういうものが好きか伝えていたら、巡り巡って担当させていただくことになったんです。ある種、種まきをしていたら機会が巡ってきて、坂元さんと仕事をすることができました。このように関わった作品がカンヌ国際映画祭で脚本賞まで受賞して……。ご褒美みたいな体験だったなと思っています。

 

仕事をする上で持たれているポリシーはありますか?

“映画リテラシーが高い”という時に、作品のバックグラウンドや元ネタに詳しい人のことを指す人もいると思います。私は、好きな映画館があるとか、応援上映を全力で楽しめるとか、映画の楽しみ方を知ってることが“映画リテラシー”だと思っていて。そういった細やかな映画の楽しみ方も記事にしたり、コンテンツにしたりすることは心がけています。あとは“映画ファン”の設定をあまりコアにしすぎないことも。毎日のように映画を観ている人のことを映画ファンと言う人もいると思うんですが、私は、季節に一回でも映画館に行って映画を観る人、たまたま観た予告編で次に観たい映画を決める人も映画ファンだと思っています。

 

下田さんなりのおもしろい映画の見方を教えてください。

映画に限らずですが、いまは時間の奪い合いなので、良い映画だけ観たいとか、間違いなさそうな映画だけを観たい、そのために口コミを先に読む人もいると思うんですけど、「なんだったのこれ!」って笑ってしまうような作品を観るのも楽しいと思います。そういう体験も、私の中では楽しい映画の付き合い方のような気がしています。

 

映画館で映画を観る魅力は何ですか?

2時間、閉じ込められることで、映画に集中するしかない環境になることです。流し見していたらグッとこなかった映画も、集中して観ると全然違うものが観えてきたりするんですよね。映画はお祭りなので、映画館で観たほうが絶対楽しいと思います。映画パンフレットという文化も大好きですし、帰りのエレベーターで周りの人の感想を盗み聞きするのも楽しい(笑)。今は映画環境も自由に選べますし、IMAXスクリーンで視界いっぱいに広がるとか、黒がすごく綺麗に観えるとか。そういった意味でも、環境は体験を作るので、映画館で映画を観てもらいたいです。

 

鑑賞スタイルのこだわりはありますか?

その作品にふさわしいと思う環境で、なるべく初週に映画館に観に行くことです。IMAXや4DXなど映画を観る環境を選べるのって、それ自体贅沢なことですよね。プレミアムシアターと呼ばれるスクリーンや音響にこだわった環境で映画を観ると、「全く違う作品!」ってくらいに変わるんです。海外ではIMAXスクリーンの取り合いが起きるくらい、作り手側も“作品を一番いい環境で観てほしい”という想いが加速していて。配信が充実している時代だからこそ、映画館で観る時は、その作品に似合う環境で観ようと思っています。

 

映画業界に携わりたい高校生にメッセージをお願いします。

観た映画を誰かにおすすめしたいと思う人には楽しい仕事だと思います。映画業界はアニメーション作品や認知度のある作品と、そうでないものの二極化がすごく激しいのが現状です。特に日本のアニメーション映画は世界中でヒットしたり、今までとは違う広がり方をしているので、昔の映画産業とは違う形で拡張していく過渡期になっていて楽しく仕事ができると思いますよ。同時に、皆さんが普段観ているような作品以外の映画が残っていくためにも、若い人たちにぜひ入ってきてもらいたいと思っています。

お仕事言葉辞典『MOVIE WALKER PRESS』編集長編

【プレミアム・ラージ・フォーマット】ぷれみあむ・らーじ・ふぉーまっと
通常の35mmのフィルム上映に+αの上映形態・興行形態が付いたもの。IMAXや4DXなどの特殊上映の映画のことを指す。鮮やかな色や高性能の音響など、圧倒的な臨場感を劇場内で楽しめるのが特徴となっている。

 

お仕事道具見せてください

【インタビュー】『MOVIE WALKER PRESS』編集長 下田桃子「上映されている期間にみんなが同じものを観て熱狂できるのが映画の醍醐味」

PCの充電器 ICレコーダー、ノート
映画メディアの編集者は必須アイテムが少なく、PCの充電さえ切らさなければいつでも働けます。そんな中でも、ICレコーダーと試写会を観ながら書き留めるノートはいつも持ち歩いているそうです。

 

INFORMATION

下田さんが編集長を務める 『MOVIE WALKER PRESS』

https://moviewalker.jp