さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第74回は、老舗呉服問屋社長の上達功さん。異業種から着物業界に転職し社長になった上達さんが考える若者に伝えたい着物の魅力についてお聞きしました。
上達功(じょうたつ いさお)
東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、米IBMの日本法人日本アイ・ビー・エム株式会社を経て、2005年に株式会社丸上に入社。2012年に代表取締役社長に就任し現在に至る。また、経済産業省和装振興協議会商慣行分科会委員、きものサミット商慣行分科会パネリスト、東京織物卸商業組合理事などを歴任している。
◆お客様の人生の節目に立ち会い最高の一枚を提供できることがやりがい
仕事内容を教えてください。
全国各地の着物の産地から反物を買い付け、小売店に卸しています。反物を一度東京に集め、弊社の営業がお客様に合う商品を提案し、日本中のお客様に効率よく着物を提供しています。それに加えて、自社ブランド「丸上振袖コレクション」やオリジナルの振袖企画を多数展開。問屋でありながら、ブランディングにも力を入れています。
現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。
私は高校から社会人までアメリカンフットボールをやっており、日本アイ・ビー・エムには社会人アメフトの関係で入社を決断。営業として働いていました。2002年に家内と結婚したのですが、実は会長の一人娘で。彼女が家業をやってくれていたので、会長から「丸上に来てくれ」と言われたことはありませんでした。ですが結婚して3年、丸上に転職しようかすごく悩んだんです。今までの私は、良い学校に入って、大きい会社で働けば幸せな人生という価値観で育てられた部分がありました。その価値観を否定はしませんが、自分の中で“働く”とはどういうことなのかわからなくなってしまって。その期間に、それまで全く読まなかった本を読み、いろんな人から話を聞いて、自分自身の決断で丸上に転職することにしました。なのでうまくいかなかったり、失敗することもあるけれど、その時は自分の決断でこの業界に来たという自己責任で諦めがつくのでよかったと思います。
前職の経験で活かされていることはありますか?
現在会社では一品一品商品を管理しているので、例えば、商品のステータスや、店内在庫などを日本全国のお客様にリアルタイムで見てもらえるシステムはないかと考えています。私はいつもちょうどいい商品を欲しい人にタイムリーに適正な価格で届けたいと考えていて。そういったシステムがあれば、遠くに居ても在庫をリアルタイムで確認でき、数日でお客様に届けることができます。こういったアイディアは前職の経験があったから出てくるものだと思います。また、前職ではなくアメフトでの経験にはなってしまうのですが、役割分担はとても大切にしています。アメフトは役割分担のスポーツで、球を取る人、押し合う人などみんなで一緒に練習するわけじゃないんです。それを着物業界に置き換えても、職人さんはものを作るのにすごくこだわりはあるけれど説明するのがうまくなかったり、うちの社員も小売店にもいろんな個性の人がいます。その個性を協調させて活性させていくのが卸の仕事だと思っているので、どう活かすかは常に考えて行動していますね。
着物の魅力を教えてください。
着物を着るといつもと違う自分になれるところではないでしょうか。着物は男女関係なく、歳を重ねるほど似合うようになってくると思います。帯などで着方を工夫すると、恰幅のいい方や痩せている方でもからだに合わせて着ることができます。西洋では自分が服のサイズにからだを合わせるのがあたりまえですが、布にからだを合わせるのは日本独自の文化です。そして、着物は一枚の反物を直線に裁断しているので、仕立て直しができ、思い入れのある生地を代々受け継いでいけるところも魅力。着物は日本人らしい知恵が詰まった日本の民族衣装です。そういう日本人の誇りを高校生の皆さんには知ってもらいたいですね。
仕事をする上で意識していることはありますか?
どうやったらお客様の役に立つかということはいつも考えています。企業や人って、誰かに必要とされているから残るのであって。残るためにはアイディアの時代なので、新しいアイディアはいつも考えています。そうするとぴょこっと浮かんできたりするんですよね。着物業界は他の業界と比較すると昔ながらのやり方を踏襲しているところが多いです。時代の流れを読んで一歩先に行くためにも、活かし方や組み合わせ方などを常に考えています。
着物業界にはどんな人が向いていますか?
色やファッションが好きな人、人に興味がある人は働きがいがあると思います。着物は、着物と帯のコーディネートなので、着物をファッションとして“こんな着方をしたらいいんじゃないか”と考えられるといいんじゃないかなと思います。
お仕事言葉辞典 老舗呉服問屋編
【裏札】 うらふだ
着物の名前を数字で暗号化したものが書かれている札。理解すると解読が簡単だそうです。
お仕事道具見せてください
五つ玉そろばん
計算機やレジがなかった時代に、問屋では必需品だった五つ玉そろばん。裏面が木で覆われ、相手からは見えない仕様になっています。今は作っている人がおらず、新しいものが手に入らないため大変貴重なそろばんです。