女子高生レーサー 松井沙麗「自分もカートに乗って思い切り走りたい」

なにものがたり

 

 

自分だけの道を見つけ、目標に向かって進む学生たちに話を聞く企画『なにものがたり』。第2回は、今年の4月から女性限定のカーレース『KYOJO CUP』に参戦し、プロレーサーとしての一歩を踏み出した、現役女子高生レーシングドライバー・松井沙麗選手のものがたりを紹介します。

女子高生レーサーが新たな舞台
レーシングカー・フォーミュラへ挑戦!
夢のF1レーサーへ一歩を踏み出す

女子高生レーサー 松井沙麗メインビジュアル
(C)KYOJO CUP

”自分もカートに乗って思い切り走りたい”
ハンドルを握った瞬間にそう思ったことを鮮明に覚えています。

 

—レーシングカートを始めたきっかけを教えてください。

父が趣味でレーシングカートに乗っていて、5歳の時にサーキットに一緒に行ったんです。そこで父の運転する姿を見て自分も乗ってみたいと思ったのがきっかけですね。その時に初めてカートに乗ったのですが、シートに座り、ハンドルを握って運転をする姿勢になった時に、“思いっきりカートに乗って思い切り走りたい”と思ったことを鮮明に覚えています。

—プロのレーシングドライバーを目指したきっかけを教えてください。

プロを目指すきっかけになったのは、小学3年生の時にJAFのジュニアカート選手権に出場した時です。レースは年間を通して順位を競うシリーズ戦が多いのですが、私の初めてのシリーズ戦出場がジュニアカート選手権でした。それまで個人でたくさんのローカルレースに出場していたのですが、全日本には全国からレベルの高いドライバーたちが集まってくるんです。シリーズ戦ならではの会場の雰囲気や、同じ会場で行われていたプロのレースを観戦して“これがプロドライバーの走りなんだ”と感動しました。その時、「いつか自分もプロのレーシングドライバーになりたい」と思ったのが、プロを目指した原点です。

—一番の挫折経験を教えてください。

私は2024年1月から2025年12月まで、イギリスに本社がある育成ドライバープログラム『ウィリアムズ・レーシング・ドライバー・アカデミー』の育成ドライバーとして、拠点をヨーロッパに移して活動していました。1年目は割と成績が良かったのですが、もっと頑張ろうと思っていた2年目から、思うように結果が出せなくなってしまって。私が参戦していたヨーロッパ選手権は、ヨーロッパのトップクラスの選手が参戦するシリーズで、私は当時観光ビザで海外に行っていたので、ビザの手続きの関係で十分な練習ができないままレースに臨むことが多く、決勝どころかプレファイナルにも残れないレースが連発していて……。結果が出せず、当時チームからもやんわりとではありますが「クビになるかもよ」というようなことは言われました。また自分のレーサー史上最大の事故を5月に経験したこともあって。メンタル的にも落ちていて、もうこのまま日本に帰って普通の中学生になりたいなと思ったこともありましたね。

—その経験をどのように乗り越えたのですか?

私が日本で6年間お世話になっていたメカニックの方が亡くなったことが大きな出来事ではあったのかなと思います。4月にイギリスのウィリアムズ・レーシングの本社に行き、育成プログラム担当の方とお話をする機会があったのですが、“9月の世界戦レースでいい加減に結果を残してもらわないと厳しいよ”というような内容で……。その後、ビザの手続きの関係で日本に一時帰国して、ヨーロッパに戻る前にそのメカニックの方とお会いしたんです。その3日後、スウェーデンで練習をしている最中にその方の訃報を知りました。突然の知らせで驚いて、とにかくつらかったです……。だけど9月には私のクビがかかった大事なレースがあるし、亡くなったメカニックの方に恥ずかしくないように、今までで一番いい結果を出すつもりでレースに挑もうと、頑張って気持ちを切り替えました。何がなんでもこのレースだけは笑顔で終わろうと決めて頑張ったんです。そうしたら、それまでで一番良いタイムが出せて。久しぶりに気持ちいい走りができたなと感じることができました。チームの方も結果を見てくれていて「頑張ったね」って言ってくれて。その出来事がつらい期間を乗り越える大きなきっかけになったかなと思います。

—2026年4月から、これまで乗っていたカートからレーシングカー“フォーミュラ”にステップアップした感想を教えてください。

そもそもフォーミュラとは、ある決められた規格で作られたレーシングカーのことを言います。今年度から私はこれまで乗っていたカートから、フォーミュラに乗り換えてレースに挑戦していて。そのレースは、フォーミュラ1からフォーミュラ4までカテゴリーが分かれているんです。数字が若い方からレベルが高く、フォーミュラ1は“F1”と呼ばれる世界トップクラスのカーレース。私は1年目ということもあり、カテゴリー的にはF4になりますね。カートとフォーミュラは、車の大きさや重さはもちろんですが、乗り方も全く違って。カートは重量が軽いので、ハンドルを切ったらすぐ車が曲がるのですが、フォーミュラはハンドルを切ってもすぐ曲がれなくて、動きがカートより鈍いんです。また重量がある分、走行中の荷重移動が難しくて、フォーミュラに乗り始めてまだ数ヶ月しか経っていないこともあり、まだまだ練習が必要だなと感じています。

—5月に初参戦した女性限定のカーレース『KYOJO CUP』の感想を教えてください。

『KYOJO CUP』は予選、スプリントレース、決勝レースと2日間にわたって行われます。5月の『KYOJO CUP』では、最終的に予選が7位、スプリントレースが9位、決勝レースが9位という結果で。表彰台を目指していたので、すごく悔しい気持ちでいっぱいでした。ただ、フォーミュラ1年目の選手は私だけで、私以外の選手はフォーミュラ経験者だったんです。富士スピードウェイのコースは誰よりも走れていないし、練習もあまりできていない環境で9位という結果は、そんなにネガティブなことではないのかなと思っています。まだまだ伸びしろだらけなので、ポジティブに捉えていますね。

—改めてプロのレーシングドライバーとなった今の気持ちを教えてください。

レーススタート前にお客さんがコースに並ぶ車やドライバーを間近で観ることができる「グリッドウォーク」と、ガレージの前でドライバーとお客さんが交流できる「ピットウォーク」というものがあるんです。今までは観客として参加していたので、選手側として「グリッドウォーク」と「ピットウォーク」を体験した時に、すごく大きな舞台に来られたんだなと実感しましたね。また、ピットウォークの時間は、ファンの方がたくさん来てくれて交流できたのが嬉しかったですし、楽しかったです。

—レーシングドライバーとして大事にしていることはありますか?

フォーミュラは練習できる時間が少なくて。5月に『KYOJO CUP』が行われた富士スピードウェイは、一周が4,563メートルで、一周走るのに2分近くかかるんです。これまでやっていたカートは、一周が短く、何回も走って練習できましたが、フォーミュラは距離も長い分、練習する時間が短くなるので、乗って走れる時間を大切にしています。

—今後の目標を教えてください。

まずは『KYOJO CUP』でシリーズ優勝することです。ただ経験不足で難しいところもあると思うので、レースを通して成長し、まずは7月のレースで表彰台にのぼれるように頑張ります。また女性限定の『F1アカデミー』というレースがあって。レーシングドライバーを目指している人のほとんどがF1レーサーになることを目指して頑張っているので、私もいつかF1レーサーになって、『F1アカデミー』に参戦してチャンピオンになるのが一番の目標です。

—松井さんは普段どのような学生生活を送っていますか?

今は通信制の高校に通っていて、基本的に授業はオンラインです。時間がある時に授業動画のアーカイブを見て授業を受けています。ほとんどの時間をシミュレーターや筋トレなどのトレーニングにあてているので、空き時間で授業を受けている感じですね。切り替えがあまり得意ではないので、勉強するときは勉強して、休憩するときは休憩してという感じです(笑)。

—休みの日の過ごし方を教えてください。

土日はサーキットに行って練習していることが多いです。もちろん空いている日は友達と遊んだりもします! 友達とはご飯に行くことが多くて、最近は韓国料理にハマっています。高校生になって行動範囲が広がったので、テーマパークや遊園地に遊びに行ったりもしました!

女子高生レーサー 松井沙麗のレース中
(C)KYOJO CUP

これまで乗っていたカートから、レーシングカー“フォーミュラ”へステップアップした1年目。カートとフォーミュラではスピードが全く違い、KYOJO CUPで使用する車だと約230km/hもスピードが出るそう。

女子高生レーサー 松井沙麗の「ピットウォーク」の様子
(C)KYOJO CUP

選手と観客がコミュニケーションを取れる「ピットウォーク」の様子。これまでは観客として参加していましたが、今年度からは選手として参加。ファンの方と交流できたことがとても嬉しかったそうです。

 

\松井選手の休みの日/

女子高生レーサー 松井沙麗の休日の様子
土日もサーキットに行って練習することがほとんどですが、時間が合えば友達と一緒にご飯を食べに行きます。また高校生になり行動範囲が広がったため、テーマパークや遊園地などにも遊びに行っているそうです。

 

松井沙麗(高校1年生)
KONDO RACINGに所属する現役女子高生レーシングドライバー。趣味でレーシングカートに乗っていた父親の影響で、5歳の時に初めてハンドルを握る。2024年1月から2025年12月まで、イギリスのドライバー育成プログラム『ウイリアムズ・レーシング・ドライバー・アカデミー』のチームに加入し、ヨーロッパのレースに出場。今年4月から拠点を日本に移し、女性限定のカーレース『KYOJO CUP』に参戦している。