第100回のWorker’s fileは、高校生にとって最も身近な職業である“高校教師”。今回は、大阪府立いちりつ高等学校で国語を教えている秋本みゆき先生に、教師の仕事の魅力ややりがいについてお聞きしました。
大阪府出身。和歌山大学教育学部卒業後、国語の教員として教壇に立つ。2人目の子どもが2歳の時に、「教える力をもっとつけたい」と思い立ち、2年間休職して和歌山大学大学院・修士課程で学ぶ。現在は大阪府立いちりつ高等学校に勤務し、放送部の顧問も務めている。
言葉には言霊が宿っている。
しんどくても前向きなことを言っていたら、きっと前向きになれる
しんどくても前向きなことを言っていたら、きっと前向きになれる
💬仕事内容を教えてください。
公立高校で国語、主に古典を教えています。今の学校は9年目で、4月から1年生の担任をしています。担任としては、成績指導や進路指導、生活指導、健康指導など、生徒たちの学校での保護者のようなことをしていますね。放課後や土日は部活動の指導もしています。また夏休みなどの長期休業中は先生も休んでいると思われがちですが、普段通り出勤し、仕事をしているんですよ。
💬現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。
高校生の時に授業でやった源氏物語がすごく面白くて、古典文学を学べる大学に行きたいと思ったんです。その時は教員になりたいという想いは特になく、通いやすい国立大学という物差しで大学を探していました。“ここにしようかな”と思った大学に教育学部があり、先生になれば古典を仕事にできるのではと考え、教員になろうと決めました。当時は教員採用試験の倍率が40倍くらいあり、1回目の試験は落ちてしまって。大学卒業後は、高校の非常勤講師として働き始めました。次の学校では期限付きではありましたが、授業だけでなく生徒の生活指導・進路指導などもする契約社員のような働き方も経験し、3回目の教員採用試験で合格しました。それからはずっと教育現場で働いています。
💬大学では古典文学をメインに学ばれていたのですか?
私は日本古典文学のゼミで勉強したいと思っていたのですが、ゼミを決める大事な日に突然の体調不良で連絡もできないまま休んでしまって。結局希望していたゼミには入れず、漢文(中国言語文化研究)のゼミに入ることになったんです。ですが、そのゼミの先生が「日本の教育」について広い視野から語ってくれる先生で。体調不良が原因で入ることになったゼミでしたが、その先生に出会えていなければ、今の自分はないと思います。実際に教員として働くようになって、当時の先生の言葉がすごく身に沁みることがあるため、出会えたことに感謝しています。
💬ゼミの先生の言葉で印象に残っている言葉はありますか?
いっぱいあるけれど、一つは「君の目の前にいる子たちは、今はできていないかもしれないけれど、将来自分を越すような子になっていく。だから、そのつもりで教育しないといけないから責任は重いよ」というような言葉です。それは自分が教師になって本当にその通りだなと実感しましたね。高校生は驚くほど成長していきますから。今はできていなくても、いつか“私を越す力をつけさせること”が私の仕事だと思うようになりました。私が漢文のゼミで学んでいる時も、先生は同じ気持ちで丁寧に教えてくれていていたんだなと、今も時々思い出しますね。ゼミの先生には、もう一つ「もっと勉強した方がいいよ」と言われました。実は私、大学ではあまり勉強しなかったんです。それでも、なんとか教員採用試験に合格し、教壇に立っていましたが、「作品の読み方や伝え方はこれでいいのかな?」という疑念がわき始めました。その時にまた、ゼミの先生の「もっと勉強した方がいいよ」という言葉が思い出されて……。“教員を続けていくためにも、勉強をし直さないと”と思い立ち、「長期自主研修制度」を利用して、2年間休職し、大学院で学び直すことにしました。もちろん、ゼミの先生も賛成してくれました。2人目の子どもが、まだ2歳になったばかりの頃だったので、他の学生さんのように勉強時間をとることはできませんでしたが、それでも、仕事を離れて勉強をする時間をとることができ、「教える」ということの意味を考えることができた貴重な2年間だったと思います。
💬放送部の顧問として意識していることはありますか?
私は放送部の活動の中でも特に朗読に力を入れています。私が「朗読」と出会ったのは、前任校に勤務していた時です。前任校には“国語科”という日本で唯一の専門学科がありました。国語科の子たちは、どの子も驚くほどの国語力がありました。国語力の一つに「読解力」がありますが、読解力があることを見せられる機会ってなかなかないでしょ? 国語科の生徒は控えめな子が多くて、読解力があることを何かの形で外に見せられたらいいなとずっと思っていたんです。そんな時に、前任校の卒業生でアナウンサーをされている方に出会い、朗読の魅力を知り、国語科の課外活動として朗読を取り入れることにしたのです。朗読って感情を込めて読めばいいというものではなく、本文の言葉を読み解き、その解釈をもとにして、作者や登場人物の思いや、作品の世界観を声で表現するものなので、読解力が必要なんです。私自身はアナウンスや朗読については未経験なので読み方の手本を示すことはできませんが、国語科の教員として“読解と解釈”の手本を示すことはできると思いました。読解に重点を置き、本当にその解釈、その読み方でよいのかというところを聞き分けて、その文章に適した読み方を提案していくような、「国語力で戦う朗読」ということを意識して朗読の活動を行って。その方法は、国語科の生徒には効果てきめんでした。国語科の課外活動という枠組みでしたが、活動を始めて3年後には、全国大会の大阪代表に選ばれるようになり、転勤するまで7年連続で全国大会に出場することができました。現任校に転勤してからも、放送部の活動の中に朗読活動を加えて部員を募り、活動2年目には全国大会の大阪代表に選ばれ、以来、番組制作、アナウンス活動にも挑戦しながら、8年連続で全国大会に出場しています。
💬教員の仕事のやりがいを教えてください。
教員の仕事は3年間での成果だけでなく、生徒の卒業後の人生も見据えています。長く学校で教えていると、教え子の10年後、20年後を見せてもらえる瞬間があります。少し前に20年くらい前の教え子と話す機会があってね。彼女が「仕事で大変だった時に秋本先生が授業でつぶやいていた言葉を思い出して頑張ってこられた」と言ってくれたんです。私ね、“言霊”がすごく好きで。「言葉には言霊が宿っている。しんどくても前向きなことを言っていたら、きっと前向きになれる」ということを授業でつぶやいていたらしくて。それが今でも教え子の心に残り、20年経って学校で教えたことが実を結んでいる瞬間を見られて、神様から「教員頑張れよ」と言われているような気がしました。子どもたちの未来につながる仕事をしていると思うと責任はありますが、教えることでその子たちの人生を豊かにしていくという点では他にはない仕事だと思いますし、すごくやりがいを感じます。
💬生徒と接する際に心がけていることはありますか?
生徒自身が気づいていない力を引き出したいと思っています。そのため、「声がよかった」や「文章が上手」など、ささいなことでもいいなと思ったら声をかけるようにしています。逆に「アホやなぁ」みたいな可能性を否定するような言葉は言わないようにしていますね。
💬教員を目指す高校生にメッセージをお願いします。
3年後、10年後、20年後と、人の成長を楽しみにできる仕事はなかなかないので、そういう面でもやりがいのある仕事です。特に高校生は、日々変わっていくこれからの日本を支える子たち。そういう子たちの考えを近くで見るのはとても面白いし、夢のある仕事だと思いますよ。


教務手帳、iPad mini、チョーク
教務手帳には、成績をつける際に参考にする重要な記録が書かれており、iPad miniには授業で使う資料が入っています。デジタル化が進んでいても基本は黒板への板書なのでチョークも持ち歩いているそうです。

高校教師編:【机間巡視】 きかんじゅんし
授業中に教師が生徒の席の間を周りながら様子を観察し、生徒の学習進度に合わせて個別に指導したりすること。先生間では「机間巡視しないとね」といった使い方をする。
INFORMATION
●公式HP:https://www3.osaka-c.ed.jp/ichiritsu/
●秋本先生が顧問をしている放送部の公式Instagram:https://www.instagram.com/ichiritsu_bcc/