第101回のWorker’s fileは、松竹株式会社の酒見奈那子さん。映画の予告編や、映画館にあるポスター・チラシといった宣材物の制作進行を担当している酒見さんに、宣材物を通して映画の魅力を伝えるお仕事について聞きました。
東京都出身。学生時代はダンス部に所属し、振り付けや構成、演出などを経験。大学では、映像や演劇などを学ぶ。卒業後、松竹株式会社に入社し、映画館で販売されている映画のグッズを制作する商品企画を担当し、5年前に映画宣伝部に異動。現在はクリエイティブ担当として、邦画実写作品の宣材物の制作進行を担当。担当した映画『か「」く「」し「」ご「」と「』が5月30日公開予定。
地域に貢献していきたい
💬仕事内容を教えてください。
弊社で配給・宣伝している映画作品の予告編や、ポスター、チラシなどの“宣材物”を作っています。宣材物を作る際には、宣伝プロデューサーの意向などを踏まえながら、私たちは基本的に制作のサポートのようなことを行っています。宣材物が完成するまでにはいろいろな過程があり、たくさんの人が関わっているため、スケジュールや予算の管理も大切な仕事です。宣材物は、映画の宣伝メッセージを一目で伝える必要があります。特に予告編では、初めて観た人に最初の数十秒で映画の魅力を伝えなければいけません。より宣材物の精度を高められるように、客観的に見た意見のフィードバックももらっています。
💬現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。
私は中学から大学までの10年間ダンスをやっていて、自分たちで構成や演出、振り付けなどを考える中で、人に楽しさを届ける仕事は面白いだろうなと思うようになりました。もともとエンタメに興味があったこともあり、エンタメ業界を視野に入れて就職活動をしていて。松竹はオリジナル映画を多く企画・製作していることを知り、1から新しい企画を考えて作品を生み出すことに魅力を感じて入社しました。最初の6年間は、出版商品室という部署で、映画館で販売されている映画グッズを作る仕事をしていて、5年前に今の映画宣伝部に異動になりました。
💬仕事をする上で心がけていることを教えてください。
私の生活の中には当たり前のように映画がありますが、多くの人にとって映画はそこまで身近なものじゃないと思うんです。仕事をする時も、誰でも映画が身近にあるわけではないということは肝に銘じて働いています。そんな中でも、私の仕事は映画館に行きたくなるような宣材物を作ること。他にもいろいろな娯楽がある中で、映画館で映画を観ることの良さを知ってもらうために、瞬間的に映画の魅力を伝えられる宣材を作ることを意識しています。
💬クリエイティブ担当ならではの仕事の難しさはありますか?
映画宣伝そのものの難しさに直結するのですが、映画を作っている人たちには、その物語を知っているからこその“観てほしい、伝えたい”という想いがそれぞれにあります。そんな中私たちは、作品を全く知らない人に観てもらうための宣材物を作らなければならない。映画に興味を持ってもらい、なおかつ映画館で観てもらうためにはどうしたらいいのかということを考えるのが一番難しいですね。最近はSNSで予告編を流すことも多く、最初の2、3秒で予告を観るかの判断をされてしまうので、作品の魅力を瞬発的に伝えることも意識しています。宣材物は作品の顔になるので、みんなの期待を背負っている分、いいものを作るためにサポートしていくことが大切になります。
💬映画『か「」く「」し「」ご「」と「』はどういった作品ですか?
少しだけ人の気持ちが見えてしまう5人の高校生の、もどかしくて切ない気持ちを表した物語になっています。主人公の京くんは、クラスメイトの三木ちゃんのことが好きだけど、彼女の感情の起伏が見えるからこそ、想いを伝えられなくて。一方、三木ちゃんは進路に悩んでいて、自分は何もできないという思いを抱えていたり。登場人物たちそれぞれの感情がすごく瑞々しくて、切なくてもどかしいんです。私自身、これまで学校が舞台の映画を何本も宣伝してきましたが、この作品は高校生の心に刺さる映画だと自信をもって言い切れます。彼らが感じている想いがとてもリアルで、高校生の皆さんだったら絶対に共感して泣ける作品になっているので、ぜひ映画館で観てほしいです。
💬映画『か「」く「」し「」ご「」と「』の宣材物を制作する際に意識したことがあれば教えてください。
この作品の宣材物を作る際に、宣伝プロデューサーたちと“映画を観た時にどういう感情になるかをわかりやすく伝えよう”ということを話していました。物語は“もしも人の気持ちが見えてしまったら”という設定でありながら、登場人物に共感して、泣けるシーンが観どころ。そのため「泣ける映画」ということをわかりやすく伝えられたらいいなと思い、ポスターには大きく「純度100%の涙が溢れ出す」というコピーを入れました。また映画のメインとして使われている写真は“窓から彼らの日常を覗き見る”という構図にこだわって撮影しました。
💬映画に関わる仕事のやりがいを教えてください。
映画は不特定多数の人に届けることができ、その作品がその人の人生の支えになることもあります。その一助になるお仕事ができているというところに誇りを持っています。最近は、SNSで反響が見えるので、例えば映画を楽しみにしてくれている高校生が「この映画を観に行くためにテストを頑張ろう」というコメントをしてくれていることもあり、私たちが伝えたい想いが届いているんだなと実感が湧くと嬉しいですね。
💬映画館で映画を観る魅力を教えてください。
大きいスクリーンや音響などたくさん魅力はありますが、私は全く知らない人たちと同じ空間で同じ映画を一緒に観て、感情を共有できることが特別な時間だと思っています。面白い場面では一緒に笑ったり、泣ける場面では劇場のいろいろなところからすすり泣く声が聞こえたり、同じ時間に同じ場所で同じ感情を共有していることが、他では味わえない良さだなと思います。
💬高校生にメッセージをお願いします。
私自身、学生時代に一生懸命頑張ったダンス部での経験が、今の仕事につながっていると感じています。将来何になりたいかわからない人も、今目の前にある夢中になれる楽しいことがあるのなら、一生懸命取り組んでみてほしいです。それが自分の人生につながっていくと思うので頑張ってください。

SSD
クリエイティブ担当は複数の作品を同時に担当するため、大量の宣材データを保管できるSSDがないと仕事にならないのだとか。データの量が多すぎるため、整理がとても大変だそうです。

映画クリエイティブ担当編:【校了・完パケ】 こうりょう・かんぱけ
校了は、ポスターやチラシの校正作業が完了し、印刷してもよい状態のこと。一方完パケは、映像データのチェックが完了し、最終的な完成形に仕上げる作業のこと。
映画『か「」く「」し「」ご「」と「』
