【インタビュー】ゲームローカライズ 上田まさみ「“翻訳された世界”をプレイヤーの方が感じてしまったらダメ」

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第64回は、ゲーム内に出てくる言語の翻訳を行うゲームローカライズの上田さん。海外ゲームの日本リリースには欠かせない職業に迫ります。

【インタビュー】ゲームローカライズ 上田まさみ「“翻訳された世界”をプレイヤーの方が感じてしまったらダメ」

上田まさみ(うえた まさみ)
徳島県出身。イギリス・ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程卒業。卒業後は弁護士事務所で勤務。その後、韓国に本社を持つ日本のオンラインゲーム会社 エヌ・シー・ジャパン株式会社に入社。経理職を経て、現在のローカライゼーションチームに就き、『リネージュ2』や『リネージュW』などの翻訳を手掛けている。

 

◆“翻訳された世界”をプレイヤーの方が感じてしまったらダメ

仕事内容を教えてください。

当社は韓国の本社で作られたゲームを日本のプレイヤー向けに運営することを主な業務としており、私はその中でローカライズの業務にあたっています。業務の内容としては、ゲームの仕様や世界観を守りながらゲーム内に出てくる言語を韓国語から日本語に変更しており、テキストだけではなくキャラクター名やセリフ、武器など全ての言語を翻訳しています。さらに、日本でリリースする際のボイスの収録や声優さんのキャスティングも行っています。ゲームローカライズは単純直訳だとストーリーや世界観にそぐわないこともあるため、気にするべき点がたくさんあって、国独自の捉え方なども考慮しつつ、元の世界観や意味を失わないようにしなければなりません。また文字数なども気にする必要があるので高度な作業にはなるのですが、できる限り理想に近づけることでゲームの品質を高めていけるよう努力をしています。

 

現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

学生時代に海外の学校に通っていて中国語と韓国語を学んでいたのですが、当時は語学を活かそうとは思っておらず、税理士になろうと思っていました。卒業後は実際に経理関係の仕事をしていたのですが、たまたまエヌ・シー・ジャパンの求人を見つけ、私自身昔からゲームが大好きだったこともあり「好きって仕事にできるんだ」と思い応募しました。ただ、最初は経理として採用され、語学が必要ない仕事に携わっていたのですが、他部署の外国人社員の通訳などで駆り出され手伝っていたところ、ちょうどその時に英語から日本語にローカライズするゲームタイトルがあり、その業務も手伝うことになったんです。その時の実績をきっかけにローカライズの現場に異動することになり現在に至っています。

 

韓国でアップデートされた作品を日本で公開するまでにはどれくらいの期間がかかるのですか?

タイトルによってものすごく差があるのですが、比較的安定しているPCタイトルでしたら、韓国のアップデートから2〜3ヶ月後に日本で公開されるというようなスケジュール感です。ただ、“グローバルワンビルド”と言って、日本以外の国と同時進行となるタイトルになってくると制作もほぼ同時進行となるため、韓国から制作途中のデータを受け取り、それを翻訳して音声収録をするとなるとスケジュールはすごくタイトになります。

 

仕事をする中でのやりがいを教えてください。

翻訳をする中で、最初は全て韓国語だった世界が少しずつ日本語に変わり始めていく感じが好きですね。徐々に韓国語と日本語が混ざってきて、最後には日本語一色になるのでそこは楽しさを感じます。そして自分が翻訳に携わった新作タイトルがリリースされた時にプレイヤーさんがゲームの中に接続してくる瞬間は、何事にも代え難い達成感と感動がありますね。

 

翻訳をされる際の割り振りはどのようにされているのですか?

スタッフそれぞれの特性も考慮します。例えば言葉選びが上手いスタッフには、意訳が許されるセリフ部分を担当してもらうとセンスが光りますし、逆に間違ってはいけないアイテムやスキルの説明部分は翻訳や表記の規則を決めて、几帳面な作業ができる人に担当してもらうと安心です。

 

仕事をする上で持たれているポリシーはありますか?

納期に合わせてタイトなスケジュールで動くことが多いのですが、そんな中でも単純な直訳にならないように心がけています。“翻訳された世界”をプレイヤーの方が感じてしまったらダメだと思うんです。だから翻訳自体にかける時間には妥協しないようにしています。

 

ゲームローカライズにはどんな人が向いていますか?

韓国語が上手い人というよりかは、しっかりと日本語ができる人が向いていると思います。プレイヤーの方に見えるのは日本語の部分なので、日本語の表現力が高い人の方が大事ですね。あとはゲームが好きな人。ゲームをあまりやらない人は単純直訳になりがちなのですが、普段からプレイしている人はゲームの空気感を読むことができるんです。日本語がしっかりできて、ゲーム好きな人は向いていると思います。

 

高校生にメッセージをお願いします。

得意な分野や興味がある分野は、自身の成長の鍵になります。興味がないことを「指示された仕事だから」とやっていたら、私自身こんなに頑張れていないと思います。タイトな締め切りの中で業務を行うので大変なこともあるのですが、自分がやりたいと思ってやっている仕事なので、私は頑張れている部分があるんです。だから、自分が興味のある分野を積極的に探してみてほしいです。

 

 

お仕事言葉辞典 ゲームローカライズ編

【訳割れ】やくわれ
訳す人によって、同じ単語が違う形で訳されてしまうこと。セリフや武器など、全ての単語の翻訳で気をつけなければならない点の一つ。この“訳割れ”を起こさないためにも、翻訳者同士の情報の共有が重要となる。

 

お仕事道具見せてください!

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ローカライズに欠かせない翻訳ツール“memoQ”
翻訳を効率的に行うためのソフト“memoQ”。翻訳したものをデータベースに一度登録すると、次回以降似たような文章が出てきた際に似たものを提示し、翻訳の補助をしてくれるそうです。

 

INFORMATION
上⽥さんが勤める会社 エヌ・シー・ジャパン株式会社

【インタビュー】ゲームローカライズ 上田まさみ「“翻訳された世界”をプレイヤーの方が感じてしまったらダメ」

ゲームタイトル 紹介ページ:https://www.ncsoft.jp