【インタビュー】万引きGメン 望月 守男「使っても減ることがない、むしろ使えば使うほど増える経験という貯金ができる」

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第58 回は、万引きGメンの派遣会社である株式会社エスピーユニオン・ジャパンの代表取締役、望月守男さん。一 日に18 人の万引き犯を捕まえたこともあるレジェンドに迫ります。

【インタビュー】万引きGメン 望月 守男「使っても減ることがない、むしろ使えば使うほど増える経験という貯金ができる」

望月 守男(もちづき もりお)
高校時代、父親に連れられて行ったスーパーマーケットで1日に3人の万引き犯を見つける。その際、日常に潜む万引きの多さに衝撃を受け、自身が19歳の時に万引きGメンの派遣会社「株式会社エスピーユニオン・ジャパン」を設立。万引きGメンの第一人者として、1日に18件、月間186件の万引き犯を捕まえた実績もある、万引きGメン界のレジェンド。

 

◆使っても減ることがない、むしろ使えば使うほど増える経験という貯金ができる

万引きGメンになるまでの経緯を教えてください。

私が高校生の時、千葉県にできたスーパーマーケットに親父が連れて行ってくれたことがあり、その時に万引き犯を3人見つけたんです。そこでもともと正義感が強かった私は、泥棒が客を装って店に入り込み、商品をコソコソ持ち出すというその神経に憤りを感じました。商品の研究開発から製造、さまざまなチェックをして、業者の方の手を介して納品され、従業員さんが綺麗に陳列をする。それを、お金を払わずに持ち去っていくなんて許せないじゃないですか。あとは単純に私が万引きを見つける頻度が多かったこともあり、万引きを捕まえる専門の職業があってもいいのではと思ったため、19 歳の時に万引きGメンの派遣会社を起ち上げました。

会社を起ち上げられてからは、どのように万引きに向き合われたのですか?

そもそも、なぜこんなに万引きが多いのかということを考えました。調べてみると、お店には人や物、お金、時間、場所などを管理する管理システムがあります。これはそれぞれのお店で構築されるシステムなのですが、この管理システムそのものの作り方が、“人は生まれながらにして善である”という性善説でのシステムなんですよ。しかし本来これは逆であるべきです。人と人との関わり合いは性善説で考えるべきですが、管理システムというのは性悪説で構築されていないといけないんです。ところが、日本企業のほとんどの管理システムは性善説管理なんです。さらに買い物自体が、商店などの対面販売から量販店のセルフシステムに変わり、“店内に陳列している商品から欲しいものを自分でレジに持ってきてください”というスタイルに変わりました。つまりお客さんにとっては、店員が見ていない、店員から見られていない時間が極めて長いんです。同時に、店員がいたとしても万引きをするのではという目で見られているとは思わない。“隙があれば万引きができる”という環境をお店側は作ってしまっています。だから私は、万引き犯が悪いのは前提ですが、万引きしやすい環境を作り、万引きを防止する工夫をしていないお店側にも責任があると思っています。だけどやっぱり、実際に万引き犯を捕まえてお店側にも理解してもらわないといけないので、そのためにも現場に立ち多くの万引き犯を捕まえてきました。最近は万引きは減っている傾向にあるのですが、昔は最高で1日に18件、1ヶ月で185件捕まえたこともありますよ。

万引きをしそうな人はどのように見分けるのですか?

万引きをする人は、目に出ます。採用されたばかりのGメンは、買い物カゴの中や、動きを見るのですが、この道のプロは目を見るんです。“目は口ほどに物を言う”と言いますよね。私たちGメンから言わせると、目は口以上に物を言います。だから万引きしようとしている人は、店に入った瞬間から見抜くことができるんです。それがわかるようになるためには、経験を積んでいくしかないですね。

万引き対策にはどんなものがあるのですか?

そもそもなぜ万引きをするのかと言うと、誰も見ていないからです。そしてもう一つ、自分の店ではないからという考え方。所詮他人の店だと思うからできてしまうんです。だから最高の万引き対策は、全てのお客様に“このお店は自分の店だ”と思ってもらえるようなおもてなしをすることだと思います。

万引き常習犯にはどんな人がいるのですか?

私はこれまで、同じお店で同じ人を7回捕まえたことがあります。あとはカニの缶詰を専門に万引きして歩く人がいたり。この時は8回捕まえましたが、その8回は一つの店舗ではなく、別の店舗で行われていました。我々Gメンは、万引きされた商品や手口を見て、常習性を測っていきます。だいたい初めて万引きをする人は、商品は1点、多くても2点。ガムやチョコレート、ボールペンなど小さなものが多いです。そこで成功すると、だんだんと品数や金額が増えていきます。動作についても、最初は非常に神経質で速いスピードで店内を歩くのですが、常習者はゆっくり店内を歩き、堂々とやるようになります。何回も成功しているので安心して万引きをするんです。そんな人を捕まえると、だいたい10点から15点くらいは万引きした商品が出てきます。こういう人は過去に10回程度は万引きをしている場合が多いですね。

万引きGメンとしてのポリシーを教えてください。

人間力ですね。簡単に言うと自分の“大ファン”を作ることです。これは私のコンセプトでもあります。夢を自分自身で叶えたいという願望はみんな持っていると思うのですが、どうすれば叶えられるのかということです。例えば私が国会議員になりたいとするじゃないですか。そうなったらもちろん自分自身で勉強したりはしますが、その時に実際に議員にしてくれるのは有権者の方達です。さらに有権者の中で票を入れてくれるのは自分のファンの人。夢を叶えてくれるのはファンの人なんです。しかもただのファンではなくて大ファンなんです。あの人のためなら火の中水の中という人。その大ファンをいかにして作るかというコンセプトで、万引き犯ともお店の人とも向き合ってきました。

万引きGメンという仕事の魅力を教えてください。

Gメンの仕事はものすごく幅が広いんです。老若男女あらゆる職業の人が、隙あらばと万引きをします。そうすると捕まえるところからその後の対応まで本当にいろいろな経験ができるんです。そしてその経験というのは貯金です。使っても減ることがない、むしろ使えば使うほど増える経験という貯金ができます。これはGメンの魅力だと思いますね。

高校生にメッセージをお願いします。

絶対に成功する万引きの方法はありません。やがて捕まります。さらに我々は、万引きした高校生が将来みんな殺人犯や強盗犯になるかと言われたら、それは絶対にないと思っています。なぜかと言うと、子供たちの万引きはゲーム感覚でやっていることなんです。だから、万引きをしたことがある高校生がいるのだとしたら、「これまでのことはいいよ」と言いたいです。もし万引きで捕まったら一生記録が残り、その記録は進学や就職にも影響してきます。そんなリスクを冒してまで万引きゲームをやるんですか? だから今万引きをしている人がいるのなら、考え方を直ちに改めてください。もし今まで10 回万引きをしたことがあるのなら、これからは目に見える形の社会貢献を10 回やって罪を償ってください。それはあなた個人の心の問題です。それをしないと一生心に十字架を背負っていくことになりますよ。

お仕事言葉辞典 万引きGメン 編

【私人逮捕】 しじんたいほ
私人(一般人)による逮捕のこと。日本法では現行犯逮捕にのみ私人逮捕が認められており、逮捕状がなくても行うことができるとされている。万引きGメンが万引き犯を捕まえる際はこの“私人逮捕”が行われる。

お仕事道具見せてください!

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万引きGメンの精鋭部隊、HI-SATに欠かせない道具
適正試験・特別養成カリキュラムに合格した万引きGメンで構成されるHI-SAT。彼らが持ち歩く道具には、特殊警棒をはじめ、Gメン同士の連絡手段である無線機、犯人逃走時に使う警笛などがあります。

INFORMATION

望月さんが代表取締役を務める会社
株式会社エスピーユニオン・ジャパン
https://spujapan.com