第113回のWorker’s fileは、株式会社モルタルアートの椎木長利さん。テーマパークなどで目にする人工的な岩や石などを製作する“モルタル造形”のパイオニアである椎木さんに、唯一無二のアートを作り出す仕事“モルタルアート”について聞きました。

後継となる予定だった会社の倒産を機に、モルタルアートの世界に足を踏み入れる。35歳の時に有限会社アワ造形を立ち上げ、2017年に株式会社モルタルアートに社名を変更。有名テーマパークをはじめ、動物園や水族館、店舗や個人宅などのモルタルアートを幅広く手掛ける。現在は同社の代表取締役を務める傍ら、ものづくり大学の非常勤講師として、学生にモルタルアートを教えている。
モルタルアートは正直この世になくてもいい
でもそこにあることによって感動してくれる人がいる
—仕事内容を教えてください。
私が代表を務める株式会社モルタルアートでは、セメントと砂を練り混ぜて作った建築材料“モルタル”を使用し、さまざまな“モルタル造形”の企画・デザイン・製作・施工を行っています。みなさんが普段テーマパークで目にするような人工的な岩や石、中世ヨーロッパを思わすような壁などは、このモルタルアートで作られており、弊社はこのモルタル造形の分野において、パイオニア的な存在なのかなと思っています。国内の有名テーマパーク内の造形物や、動物園の猿山や水族館の内装、あとは店舗や一般住宅などからも注文を受けて、幅広くモルタルアートの施工をしています。
—御社が手掛けるモルタルアートについて教えてください。
モルタルアートには、偽物の岩や土を作る“ロックワーク”と、木目やレンガ、石積みなどを作る“キャラクターファサード”があります。その中でウチの会社は、“ロックワーク”が大半の割合を占めています。基本的にこのロックワークはとても難しいです。岩にも火成岩や堆積岩、変成岩などがあります。ロックワークで岩を作る時にも、岩の歴史やストーリーをしっかりと考えた上で作り込むので、そういった勉強も必要になってきます。とっても奥が深いものですね。
―椎木さんの現在のメインのお仕事を教えてください。
僕はもう現場に立つことはほとんどなく、仕事を取ってくるのがメインになります。基本的に動物園や水族館の仕事というのは、自動的に来るシステムができていて、それらが年間の中で8割を占めているかなと思います。あとは店舗や個人宅などは、短期でできて手離れがいいので、やっている職人も短い期間で完成品が目に見える分、楽しいんですよね。動物園や水族館、テーマパークなどは本当に大掛かりな仕事になるので、若い子だとなかなか勉強する時間もとれなかったり、ちょっと難しい。だから最近は、短期的にできる現場の仕事を積極的に取るようにしています。
―モルタルアートのデザインなども考えられるのですか?
お客さんがだいたいのデザインを考えて持ってくることもあれば、自分たちでイチから考えることもあります。モルタルアートで大切なのってデザインなんですよ。AIもある今の時代で生き残るためには、デザインでお客さんを感動させないと仕事にならないんです。だから僕は職人たちに、デザインコンペに出ることを勧めています。日頃からデザインコンペに参加しておくと、さまざまなデザインをストックしておけるんですよ。仕事が来たタイミングでデザインを考えていると、すごく時間がかかります。僕自身、デザインのアイデアはもう24時間ずっと考えています。大きな本屋さんに行ったら、写真集などを見て参考にしていますし、動画をザッピングしていても、気になるものがあったら止めて写真を撮ったりしていて。あとはファンタジー系の映画は絶対に見ますね。背景などに注目して見て、デザインの参考にしたりしています。
―現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。
もともと叔父さんが会社の社長をしていて、僕自身そこの後継だったのですが、その会社が倒産してしまって。ただ、そこで遊んでいるわけにもいかないので、横須賀の米軍基地に船の外板の塗装をしにいったんです。それが終わった後は、豊橋に行ってレース用のヨットを造って。それがすごくキツい仕事で、最終的に僕しか残らなくて(笑)。その時に知り合った方が「東京の工場に行くけどついてこないか」と言ってくれて、何の仕事が知らずに行ったら、有名なテーマパークの仕事をしていた会社だったんですよ。そこから僕は美術の専門学校に行き、今もこの会社で一緒に仕事をしている2人の人間と出会い、35歳の時にモルタルアートで独立をして今に至るという感じです。
―モルタルアートには、美術の専門学校で学んだことが役に立っているのですか?
あまり関係ないかもしれないですね。モルタルアートの中に、作ったばかりのものなのに50年、100年経ったように見せる塗装技術である“エイジング塗装”というのがあるのですが、そういうのは、もしかしたら油絵をやっていた人とかは得意だったりするかもしれません。だけど僕が思うに、モルタルアートはセンスは0でも情熱が100あればいいと思います。普段僕はものづくり大学の子にモルタルアートを教える機会があるのですが、その時に言うことは一つで「周りを気にするな」ということ。一緒にやっている人の中で、“あなたが一番、あなたが二番”って比べられるのって嫌じゃないですか。逆に言うと、小学生とか幼い子って周りを気にしないからこそ独創的で天才的な作品が作れたりするんですよ。だから大事なのは、作っていて自分が楽しいかどうかです。
―仕事のやりがいを教えてください。
これは弊社の経営理念でもあるのですが、“感動・感激”です。モルタルアートって、正直この世になくてもいいものだと思っていて。別になくても困らないんです。でもそこにモルタルアートがあることによって、感動してくれる人がいるんです。以前、ウチの社員が仕事をしていると、ある夫婦が一日中夢中で作業を見ていたことがあり、とても感動してくれたことがありました。また、ウチの社員から「お客さんを泣かせてしまった」と連絡が来たので何事かと思ったら、出来上がっていくモルタルアートを見て、感動して涙を流してくれたと。だから、このモルタルアートをやることで感動してくれる人がいる。さらに、職人も作っていて楽しいし、三方よしなんですよね。そこはモルタルアートという仕事の大きな魅力だと思います。
―仕事をする上でのポリシーを教えてください。
やっぱり妥協しないことですね。その中でも特に“しっかりとした品質”というのは大事にしています。モルタルアートに使う塗料一つをとっても、保管状態が良い塗料って2年、3年経っても全然使えたりするんです。ただ僕は自分のところの職人に「お客さんのところで使うものは一番新しいやつから持っていけ」って言うんです。やっぱりウチがこのモルタルアートで30年やれているのは、大きなミスがないというのはもちろんですが、お客さんが感動してくれているからこそなんですよね。その中で、“作ってもらったものの品質がよくない”なんてことがあったら、たぶんここまで続いていないと思うんです。だから、品質においてもそうですし、何事においても妥協しないというのは持ち続けています。
―仕事をする上で必要なスキルはありますか?
情熱のみです。センスは0でいいです。モルタルアートのすごい職人さんの中には、前職がトラック運転手なんて方もいます。だから美大に行っていようが行っていなかろうが関係ない、作ったものが下手でも全然構わない。上手くなりたいという気持ちをずっと持ち続けていたら絶対に上手くなれると思うんですよね。最初はできなくても、諦めずに情熱を持っていられるかが何より大事だと思います。
―椎木さんが思うモルタルアートの魅力を教えてください。
モルタルアートというのは、基本的に同じものは二度と作らないんです。モルタルアートを注文してくれるお客さんって、やっぱり世界で一つのものが欲しいんですよ。例えば塗装屋さんとかだと、一軒仕事をしている時に、お隣の奥さんから「ウチのもちょっと見てくれない?」って仕事をもらえることもあると思うんです。ただ、モルタルアートはそうはいかない。お客さんは世界で一つのものが欲しいので、全部ゼロからなんです。だからそこは、真剣勝負で緊迫感があって楽しいなと思います。
―椎木さんが思うモルタルアートの魅力を教えてください。
モルタルアートというのは、基本的に同じものは二度と作らないんです。モルタルアートを注文してくれるお客さんって、やっぱり世界で一つのものが欲しいんですよ。例えば塗装屋さんとかだと、一軒仕事をしている時に、お隣の奥さんから「ウチのもちょっと見てくれない?」って仕事をもらえることもあると思うんです。ただ、モルタルアートはそうはいかない。お客さんは世界で一つのものが欲しいので、全部ゼロからなんです。だからそこは、真剣勝負で緊迫感があって楽しいなと思います。
―椎木さんの今後の展望を教えてください。
モルタルアートを知らない人はまだまだたくさんいるので、やっぱりもっとモルタルアートというもの自体を広めていきたいと思っています。世間をアッと言わせるものを作っていきたいと思いますね。

モルタルアート用の工具
写真右側のブラシは、岩などの質感をよりリアルに作る際、表面上に凹凸をつけたりするのに使用。写真左の彫刻刀のようなもの3点は、モルタルを削って形を整える際に使用するそうです。

モルタルアート編
【エイジング塗装】 えいじんぐとそう
時間の経過を感じさせるために、モルタルアートに施す人工的な塗装のこと。このエイジング塗装によって経年変化を表現することができ、モルタルアートに味わいや深みを加えることができる。


公式HP:https://www.mortar-art.net
Instagram:https://www.instagram.com/mortar.art/
