【インタビュー】レコード会社 A&R 福原向日葵「まだ知らない職業はたくさんあるから、夢がない自分を否定しないでほしい」

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第77回は、株式会社ワーナーミュージック・ジャパンにてアーティストの宣伝戦略や新人発掘を行うA&Rに従事する福原向日葵さんに迫ります。

【インタビュー】レコード会社 A&R 福原向日葵「まだ知らない職業はたくさんあるから、夢がない自分を否定しないでほしい」

福原向日葵(ふくはら ひまわり)
東京都出身。青山学院大学経営学部在学中に株式会社ワーナーミュージック・ジャパンのA&Rでインターンとして働き始め、大学卒業後同社に入社。現在は、A&Rとして複数のアーティストを担当している。

 

◆まだ知らない職業はたくさんあるから、夢がない自分を否定しないでほしい

仕事内容を教えてください。

私はレコード会社であるワーナーミュージックでA&Rをしています。主に新人発掘や担当するアーティストが新曲をリリースする際の宣伝戦略を考え、プランニングを行っています。A&Rにもよりますが、私は担当するアーティストのツアーにも同行するので、今は新人を含めた4アーティストを担当しています。

 

現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

父がギタリストで、昔から音楽業界が身近な存在だったので、小さい時から自分も音楽業界で働くんだろうなとなんとなく思っていました。大学2年生になってから具体的に自分の進路を色々考える中で、改めて自分の居場所はきっと音楽業界!と思い、ご縁があり今の会社でインターンとして務めさせて頂いたあと、そのままA&Rとして入社させてもらいました。

 

A&Rとして必要なことは何ですか?。

音楽の知識も必要ですが、仕事をするアーティストも人間なのでコミュニケーション能力や、気遣い、アーティストの側にいるスタッフだからこそ空気を読む力や配慮する気持ちは必要だと思います。正直、私もインターンで入った時は人と話すのが苦手で。学生だったので、そもそも大人の方とどういう話をすればいいのかわからず、簡単なコミュニケーションも結構億劫になっていました。ですが、インターンの時から人前でプレゼンする機会を与えてもらったり、人と接することが多く自然とコニュニケーション能力や人との関わり方が身につきました。あとはそういうコミュニケーション能力の高い先輩たちに常に囲まれている環境だったので、意識せずにそういう力が伸びたのかなと思います。自分はいい先輩に囲まれてラッキーでした。

 

新人発掘はどのように行うのですか?

最近では事務所やレコード会社に所属していなくてもSNSで流行るアーティストが結構多いんです。なのでSNSは常に注目していて、そんな人たちにお声がけすることも多いです。

 

音楽業界の変化について教えてください。

レコード会社は“CDを売ること”を主なビジネスとしてきましたがみなさんもご存知の通り今はCDが売れにくい時代になっています。私自身もそうですが、特典がないとCD購入まで至らないなんて人も多いんです。その分サブスクを利用する人が増えていて、そこでの再生回数に伴う収入が大きくなってきています。さらにこのコロナ禍でサブスクに加入する人がすごく増えたのも変化の一つですね。ただ、自分は音楽業界で働く人間としてCDを作って、作品を手にした時に凄く達成感があるし感動します。CDとして手元にコレクションしたい人も多いので、CDの人気は他の国と比べて日本はとても根強いんです。

 

音楽業界を目指している学生が今からできることはありますか?

音楽業界は新卒採用をしているところが少ないんです。だけど、音楽業界に限らずですが、社会に出てみて思った事は、世の中は常に人材を求めていて。まずは新卒で少しでも音楽・エンタメに関係する職業に就いて12年しっかりと経験を積みながら希望の仕事への転職も視野に入れることもできると思います。音楽業界って思ったより狭いので、いくらでも方法やチャンスはあると思います。

 

福原さんが一緒に仕事をしたいと思う人はどんな人ですか?

一緒に仕事をしていて楽しいな、気持ちがいいなと思うのは“根底に音楽を大切に思ってる人”と仕事をする時です。いろんな考えの人がいるので「音楽に興味はないけど仕事なのでやってます」という人もいます。ビジネス的に音楽と関わるのももちろん大事ですが、音楽はすごく気持ちが乗る仕事だと思うので、音楽に対してもアーティストに対しても愛情深い人と一緒に仕事をしたいと思います。

 

仕事をする上でやりがいを感じる瞬間はどんなときですか?

私はプレイヤーではなくアーティストを支える方なのですが、例えば今担当しているアーティストとかで、ファンレターとかメールボックスに「自分は会社でイジメられてて辛かったけど、曲を聴いたら辛いときは逃げてもいいんだって思えるくらい背中を押してもらえました」などの言葉をいただくことがあります。人のネガティブな部分に寄り添い支えるアーティストを支えることで自分も携われているところにやりがいを感じます。人の役に立てるってやっぱり結構グッときます。あとは、自分が担当している大切なアーティストがライブでかっこよくパフォーマンスしている姿を見ると心の底から尊敬するし、そんな尊敬できる人の隣で仕事ができるっていうのは、この仕事ならではで、やりがいを感じるところかなって思います。音楽ってポジティブなときもネガティブなときも支えになるし、そういうときに聴いた音楽とか歌詞って自分の中に残ることが多いと思うんです。目に見える形がなくても、今担当しているアーティストの音楽が誰かのために100年後も残っているかもしれない。誰かのためになるものを作れる音楽ってすごいなって思います。

 

福原さんにも昔から自分のテーマソングみたいなのはありましたか?

私の場合、悲しいとか落ち込んでいるときに心を埋めてくれるのが音楽だったので、ポジティブな気持ちのときのテーマソングは特にないですかね。ただ、時代時代で心を埋めてくれた時の曲を思い出すと、凄くエモい気持ちになります(笑)。

 

A&Rとしてのポリシーはありますか?

「アーティストファーストのA&Rである」ということを自分の中で決めています。もちろん会社ごとのビジネスなので売り上げを上げるって本当に大切な事ですが、そこばかりにスポットを置く人間にはなりたくないなと。私は自分が担当したアーティストに真摯に向き合いたいという想いがあるので、まずはアーティストのためになることかどうかをまず一番の判断基準にしています。利益ももちろん大切です。ただ、とにかくアーティストに寄り添ったA&Rでいたいと思っています。アーティストが10年後も20年後もステージに立って歌い続けられるために、今これがアーティストのためになるのかを考えるようにしています。いろんなA&Rを見てきたからこそ、今のスタンスができたと思います。

 

A&Rではなく働く女性、福原向日葵としてのポリシーはありますかを感じる瞬間はどんなときですか?

楽しんで仕事をするというのは大前提なのですが、ちゃんと働く自分にもスポットライトを当てることを意識しています。アーティストや会社のためにボロボロになって働くのもいいけど、激動の毎日の中でも、自分で自分にスポットライトをあててあげないと、日々の忙しさで自分を忘れてしまう事があります。自分の人生の主人公は自分なので自分の事をないがしろにしない。これがポリシーですかね。大変な仕事をクリアして、自分偉い!自分凄い!と、ちゃんと自分で褒めてあげて、自分に自信を持つこと。仕事を通して自分に自信を与えるという事は、凄く大切な気がします。

 

高校生にメッセージをお願いします。

私は父がギタリストで兄もギタリストを目指していて、自分にも明確な夢、一言で何が夢なのかわかる夢がないといけないんだと思い、それがコンプレックスでした。でも今ならそんな明確な夢がなくても大丈夫だよと昔の私に伝えたい。私の場合はA&Rがどういう仕事がわからずインターンで飛び込んでみて、やってみたら音楽業界が自分の天職だと思えて。みなさんも飛び込んでみた先に天職があると思います。きっと学生のときに明確な夢が見つかる人の方が少ないんです。学生のうちは心ゆくまで気になることに飛び込んでみるのもいいし、全然興味がない分野に少し足を踏み入れてみるのもいいと思います。世の中にはみなさんが知らない職業がたくさんあります。夢がない自分を否定しないでください。

お仕事言葉辞典 A&R編

【マスタリング】 ますたりんぐ
音楽制作における最終仕上げになる工程のこと。レコーディングは歌声や楽器をバラバラに録音。それぞれの音源を合わせなじませる“ミックス”という作業後に最終仕上げとしてみなさんのもとへ届く音源にする。

 

お仕事道具見せてください

【インタビュー】レコード会社 A&R 福原向日葵「まだ知らない職業はたくさんあるから、夢がない自分を否定しないでほしい」

スーツケース
A&Rはアーティストのツアー同行やMTGのために多いときは1ヶ月の3分の1の期間、国内外を出張しているそう。そのため日常的にスーツケースを持って移動しているそうです。

 

INFORMATION

原さんが働かれている ワーナーミュージック・ジャパン

【インタビュー】レコード会社 A&R 福原向日葵「まだ知らない職業はたくさんあるから、夢がない自分を否定しないでほしい」

https://wmg.jp